ヴァナ・ディールトリビューン。




新聞を読む習慣がない方でも、名前は聞いたことがあるだろう。
名前も聞いた事がない、という方はモグりである。


トリビューン社はジュノを拠点とし、獣人とギャルカを除いた
4都市5種族の人間に向けて毎月記事を配信する大手新聞社である。

毎号、様々な記事が配信され、冒険者でなくとも
楽しめる内容になっている。読者も多い。


一方、詳細な場所は明かせないが、ミンダルシア大陸のどこかにある
シャングリラを拠点とした小誌『マイケノレ・トリビューソ』は、
悲しむべきことに読者が非常に少ない。
読者の内訳は、編集長である私と、母と、事務のバァさんと、酒屋の親父と、
近所に住んでいるご老体数人ぐらいである。
読み終わったら、ダルメルの糞に混ぜられ、畑の肥やしになる。


不評の原因は私にも分かっている。
『ミスリルマラソンで一攫千金!?』という記事を出しても、
ブームはとうの昔に過ぎている、と指摘されるし
『スパタで腰のオシャレは完璧だ!』という記事を出したが、
今時の若者に一笑に伏されただけで終わった。





もっと幅広く受ける記事を書くコツとは……。




東方の諺にあるように、餅の事は餅屋に聞け、
西洋の諺に、時計の事は時計屋に聞け、
何処かの諺に、納豆の事はマイケルに聞け、
というものがあるように、やはり本職の人間に聞くのが一番なのだ。

同じ編集者として恥を忍んで、ヴァナ・ディールトリビューン社に
取材願を提出した。
きっと鼻紙か、もしくは尻紙にでもされて
捨てられるだろうと覚悟して待つこと数週間……。





返信があった。







『貴方が借りた『いけない!午後の団地ミスラ』は返却期限を過ぎています。
速やかに返却してくだs』



何だこれは。書いてある言葉の意味が分からないが、新手の詐欺だろうか。
もうひとつの…、ジュノから届いた『マイケノレ・トリビューソ』宛ての、この手紙。




『ヴァナ・ディール社特派員Myhalです!弊社のデキるスーパー編集員Finleen
が、かなりノリ気でしたので、取材許可が出ました!
つきましては期日をお知らせ下さいね(はぁと』



まさか……こんなにも簡単に実現しようとは……。
私にもまだ運があるようだ。




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